過去編 第三話:「なんで僕が!」


荒れ果てた大地に立つのは、2体のオーガニクスだけだった。
アレクとシオン、2体のオーガニクスは向き合い視線を絡める。
お互いがお互いを意識し、空気が張り詰め緊張を生む。
オーガニクス=アレクはゆっくりと左手でマントの右肩の部分を握った。
教わったわけではない、それは昔から知っていたように戦う前の準備として、
オーガニクスにとっては自然な行動をとる事が出来た。
「始めようか・・・アレク。」
シオンがゆっくりと合図をだした瞬間に、,鈍い音が戦場に響く。
アレクのオーガニクスが、マントを大剣に変えてシオンの剣を弾いたのだ。
これが戦いの鐘となり、お互いがお互いを敵であることを実感させた。
衝撃でお互いが体制を崩す。

刹那、シオンは体制を立て直して、再度アレクに切りかかる。
その剣をアレクは後方飛び、身をかわす。
だが、シオンの剣は何度も風切り音を発生させ、執拗にアレクを追いまわす。
静かな殺意がアレクの肌に響く・・・。
シオンとアレクの大剣は、飽くことなくぶつかり合った。
その度ごとに、アレクは自分でも不思議なほどの充実感を覚え始めているのだった・・・。
アレクは決して好戦的ではない。
しかし、この溢れ出る高揚感には抗えない。
なぜか奥からにじみ出る高揚感が止まらない。
「目の前にいるオーガニクスの存在を消したい」
その思いが戦場にうめき声を溢させる。
剣がぶつかり合う中、シオンは足でアレクを蹴った。
「なかなかやるじゃないか・・・機体のポテンシャルも良い。
だが機体に振りまわされる様じゃココで死ぬのはお前だ」
倒れるアレクを見据えて、シオンはそう言い放った。
「しかし・・・アレクには妙な感覚を感じる。
ここでケリをつけた方がいいという事か?」
シオンはそう心の中で決断する。
「ウワァァァァァァア!」
アレクは叫び、再度手の剣でシオンに切りかかるが、
その剣撃はシオンの左手に弾かれた。その瞬間光が弾け、アレクはよろめいた。
まき起こる土煙。「理力!?」アレクの心によぎる。
オーガニクスは盾をもたない。
その為に自分の生命力、つまり理力を防御壁として使う。
アレクも使えるが自分の精神力が相手の攻撃よりも強くなければ、
理力防御を破壊され斬られてしまう。ある意味賭けになるのだ。
またシオンがリラーンを吹き飛ばす時にもこの理力を使っていた。
防御だけではなく、攻撃に意識を集中すれば、
その光の力で一帯を吹き飛ばす事も可能なのだ。
理力とはオーガニクスの意志の力で目的を遂行する為の力なのだ。
「お前も使えよ。いつまでも剣で防御してたんじゃ攻撃できないだろう」
シオンは冷たく言い放つ。この挑発は理力の妨げになる事を知った上での言葉だ。
煙の中に浮かぶ冷たい瞳がアレクに向けられる。
「うおぁぁぁぁ」
アレクは叫び切りかかるが、シオンはまた理力を使い弾き、
アレクは座りこんでしまう。シオンは何も言わずに見下す。
「・・・俺は何を躊躇しているんだ。」心の声が呟く、
とどめを刺す機会は何度もあったが、彼の中で何かがシオンを止める。
「いたぶる趣味は無い・・・が・・・なにか引っ掛かる」
シオンは感じた事のない気持ちの、理解に悩んだが悠長な事はもう十分と判断し、
自分の剣をアレクの咽喉元に合わせた。
「お前は良く頑張った。終りにしてやる。」
シオンは剣に力をこめたが、急に剣に抵抗を覚えた。
「まだ・・死にたくない!」
アレクは右手で剣先を握っていた。オーガニクスの手から黒い液体がこぼれる。
「最後の抵抗か・・・いいさ。それだけ苦しくなるだけだ」
シオンは力をこめ、アレクの咽喉元に剣を押しこむ。
浅くアレクの咽喉に剣先が刺ささり、黒い液体が飛沫を上げて出てくる。
その返り血を浴びシオンのオーガニクスは鈍く光を反射する。
「ガッ、ハッ」
声にならないうめきをアレクはあげるが、
自分の血のあたたかさにも、確実な死と高揚感を覚えてしまう。
目の前がドンドン暗くなる。

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