未来編 第六話:「けりをつけよう」


この研究所にきてからもう13年になる。
言われたとおりの研究を指定された時間で作業するだけ。
これだけで俺は十分過ぎるほどの金を手に入れた。
その金は俺の成果を証明していた。
俺も気がついていた。利用されている事を。
だがこのままムダに時間を過すしかなかった。
選択肢は用意されていなかった。

転機は急に訪れた。
今まで見た事ないような研究対象が俺の担当になった。
「最初に月で発掘した」ときいた時は言葉を失ったが
実物を見せられては信じないわけにはいかない。
硝子の向こうの4体の巨人がそれを証明していた。
人の爪のようなしなやかで強い材質の外装に
有機的な内部構造をもつ謎の巨人。
生物の様だがサボテン程度の意志しかない。
この全く素性がわからない巨大な物は一体何なのか?
俺は巨人を見ながらそばにいる依頼人のことも忘れて考えていた。
「よろしいですか?」
その依頼人が俺に話しかける。
「・・・考え事をしていたようだ。」
俺はそう答えた。
彼はライ=メイ今回の仕事の依頼人であり、俺にとって始めて友人といえる存在だ。
この仕事を通して彼とは色々話し合った。彼の思想、論理は十分尊敬に値する。
「この巨人は・・・何なのか?それが気になります。」
ライはそう言った。
「ああ。一緒に発掘されたと言われる布状のものは金属の一種である事が証明された。
そして巨人の遺伝子はきわめて人の遺伝子に近い。ソコまでわかってもハッキリしない。
宇宙生物の亡骸なのかそれとも別の何かがあるのか・・・それに布とも接点が見出せない・・・」
俺は少しづつ言葉を出していく。
「そうですか。・・・これはあくまで私の推測なんですが・・・」
ライは静かに喋る。
「?なんだ?教えて欲しい。」
俺は彼に聞く。彼の考えは必ず的を得ている。
「前、貴方の調査ではこの巨人は意志さえあれば動けるといった。
では巨人には・・・媒介が必要なんではないですか?の巨人の意志を司る・・・」
ライは考えを聞かせてくれる。
「・・・本体、布の他に・・・まだもう一種という事か・・・」
俺はライの顔を見た。
「ですが揃ったとしても巨人の目的、また意味は不明のままです。
それにもう一種あるとしてもそれが何か見当がつかない・・・」
ライはそう言う。
「・・・そうだな。・・・ちょっと休まないか?」
俺はライを休憩室へ誘った。もうちょっと話を聞きたくなったからだ。
「そうですね。休憩しましょう。」
ライは頷く。
「もしもこの巨人が核以上の兵器なら・・・ライはどうする?」
ドアノブに手をかけながら俺はライに質問した。
「?どうしたんですか?」
ライは眉をしかめる。
「この巨人の能力は推定だけで想像を超える装甲と筋力を持っている。
こんなのが四体もいるんだ。思い通りに操れると仮定するととんでもない兵器になる。
それが個人の思い通りになるなら・・・まぁたとえ話さ」
俺は軽く笑う。
「・・・あなたはどうしますか?」
ライは俺の質問を微笑みながら俺に返した。
「俺は・・・金の為に同種を食い殺すこの世界を・・・・潰す。」
やり直す事が出来るなら・・・やりなおすべきだ。この狂った世界も俺も。
「・・・」
ライが考えこんでいる。
「・・・冗談だよ。核以上の力などないさ」
俺はそう言って軽く自嘲気味に笑う。
・・・殺戮兵器の開発に加担していた俺は
世界平和を維持するぐらいの事はしないと罪を償えない。
だが本当の平和というものはすべてをひっくり返すだけの力がなければ成立しない。
「・・・そうですよね。」
ライは静かにそう言った。俺も冗談のつもりだった。
この時はオーガニクスの最後の一欠片が人間だと気がついていなかった。

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